<前置き>
ポケモンの総合的な強さは、「ステータスの高さ」と、「役割に合った性能をしているか」などでおおよそ決まると思います。今回は、その内「ステータスの高さ」に注目して、考察していきます。
一般的に、あるポケモンのステータスの高さを知りたいときは、そのポケモンの合計種族値を見るのが良いとされています。合計種族値が高いことは、配分の傾向よりも、そのポケモンの強さそのものに大きく影響します。例えば、ガブリアスとバンギラスは配分の傾向に違いはあれど、合計種族値はどちらも600であり、ほとんど同じポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。一方で、キャタピーは配分の傾向とか効率とかそれ以前の問題として、合計種族値が195とあまりにも低すぎるため、ガブリアスやバンギラスよりもポテンシャルで劣ったポケモンであることは明らかです。
しかし、配分の傾向による影響が少なくないのも、また事実です。例えば、ナットレイの合計種族値は489であり、明らかに見劣りしますが、CとSが極端に低いことから配分の効率が良く、数値はむしろ優秀である、という話は有名です。配分の傾向や効率が良いことで、本来の合計種族値"以上"のポテンシャルを発揮します。
今、"以上"という言葉を使いました。私は昔から疑問に思っていたのですが、では、ナットレイはガブリアスと比べて、具体的にどれくらいの数値差があるのでしょうか?
この記事では、様々な要素を含めた「実質種族値」を計算することで、そのポケモンが実際に持っているポテンシャルを数値化して、より正確に判断する方法を紹介していきます。
<目次>
①ACを無視した実質種族値
②Sを無視した実質種族値
③BDを無視した実質種族値
④技威力による補正
⑤特性による補正
<①ACを無視した実質種族値>
物理型のポケモンはCを、特殊型のポケモンはAを無視することで、より正確な種族値が求まります。
と呼ぶことにします。
また、今後、 BDSについても無視していくのですが、Bを無視した場合は語頭にDを、 Dを無視した場合は語頭にBを、Sを無視した場合は語頭に Sを付けて呼ぶことにします。(例:CBSを無視した合計種族値は、ADS実質種族値と呼びます)
ナットレイ:435
ガブリアス:520
85も離れているので、随分と差があるように感じますね。85の差というのは、例えばドサイドンのSが130になったり、クレセリアのCが160になったりするということです。数値の上ではそれくらいの差があるという計算になります。実際にはそこまでの戦力差は無いと思うので、より正確に比較するために、他の要素も計算に入れていきます。
ところでその前に、両刀ポケモンのAC実質種族値の計算の仕方を確認しておきます。
両刀ポケモンの実質種族値は正確に出すことが難しいですが、次の2つの手順を踏むことで、ある程度は求まるかと思います。
1.両刀ポケモンの合計種族値からACの値を引き、ACの平均を足す
2.それで出した数値よりも少し(5〜25程度)低く見積もる
詳細な解説は長くなるので省きます。簡単に言うと、「両刀ポケモンは数値の効率が少しだけ悪いので、その分低く見積もる」ということです。
<②Sを無視した実質種族値>
ポケモンバトルにおいて、Sというステータスはかなり異質です。ダメージレースに直接的な影響を一切与えないにも関わらず、重要なステータスとして周知されています。このままではどう扱って良いかわからないので、まずはSというステータスについて理解を深めようと思います。
ポケモンバトルは、1ターンの間に互いに1回ずつ行動します。Sはこの際の行動順に影響を与えるステータスです。つまり、Sが高かろうが低かろうが、基本的な行動回数に変化はないということです。変化が起こるのは、先制した側のポケモンが、相手のポケモンを倒した時のみに限定されます。
例えば、ガブリアスが地震でナットレイを攻撃した後、地震を耐えたナットレイがジャイロボールでガブリアスを攻撃したとします。ここでガブリアスが倒された場合、それぞれの行動回数は一回となり、Sの影響は完全にありません。
しかし、ナットレイのジャイロボールを耐えたガブリアスが、2回目の地震でナットレイを倒すことに成功した場合は話が変わります。この時、計2ターンの間に2回行動できるはずのナットレイが1回しか行動できませんでした。本来与えるダメージが半分になったということなので、これは事実上A1/2のデバフに相当します。Sによってダメージレースに起こる変化は、これのみです。
つまりまとめると、こういうことになります。
「後攻を取ったポケモンは、一方的に実質種族値を減らされるリスクを背負う」
行動回数は変わるかもしれないし、変わらないかもしれないので、そのように覚えておき、実際に実質種族値を考える際には、「上から倒された場合は、実質種族値はさらにこれくらい低くなるんだな」と低めに見積もるのが良いでしょう。
具体的に計算していきます。
ナットレイ:415
ガブリアス:418
興味深いことに、ほぼ完全に追いついていますね。一般論としての「ナットレイの種族値は優秀」はとても正確であったと言えます。
ただし、ナットレイはここから「上から倒されることによるデバフのリスク」を一方的に受け入れなければなりません。それによる補正がどのくらいかという話なのですが、どのように求めるかというと、実数値を半分にした値を、S実質種族値からそのまま引くのが良いと思います。この数値は、"縛られ種族値"と呼ぶことにします。
実際に計算してみます。
ナットレイをA無振りで育成した場合、実数値は114です。これが半分になるので、57数値を損することになります。ですので、ナットレイの縛られ種族値は358であり、これが、「ナットレイが上から倒された時のデバフの大きくなりやすさ」を含めた実質種族値ということになります。
ついでにガブリアスの方も計算しておきます。A252ガブリアスのA実数値は182なので、2で割って91、これをS実質種族値の418から引いて、縛られ種族値は327ということになります。驚くべきことに、なんと逆転します。一見奇妙に見えますが、考えてみれば当然のことで、Sの高いガブリアスが上を取られて倒されることは、Sの低いナットレイが上を取られて倒されることより重いことなのです。この数字は完璧に正確ではないものの、信用に値する数字であると思います。
※詳細な解説は、かなり複雑になるので省きますが、簡単に結論だけ言うと、「火力が低い=耐久が高いポケモンは、そもそもの行動回数が多くなりやすいので、1行動減らされることの影響が少なくなりやすい」ということです。その傾向が数値に反映される計算方法を用いました。もちろん、ナットレイが1回しか動けずに倒された場合に発生するディスアドは、ガブリアスが同じ条件で倒された時に発生するディスアドと同じ量なので、例えばナットレイで炎タイプに突っ張ってあっさり倒されることが良手になり得るわけではありません。誤解を招きやすいと思うので、繰り返させていただきました。
方針によっては別な計算方法もあるのですが、このやり方のメリットは計算が楽なことです。もう一つのやり方は、より正確なのですが、その分詳細な場合分けが必要です。
<③BDを無視した実質種族値>
BDのうち、必要ない方を無視することで、より正確な種族値が求まります。
今回の例で言うと、ガブリアスとナットレイはどちらも物理技で攻撃し合っているので、Dの数値が一切影響していません。なので、Dを無視して計算してみます。
ガブリアスとナットレイの、ABS実質種族値は以下の通りです。
ナットレイ:299
ガブリアス:333
またガブリアスが突き放してきましたね。ガブリアスのようなHが高いポケモンは、BD実質種族値が低くなりにくく、優秀です。実際にダメージ計算をして見ると、ナットレイとガブリアスが同じ技威力で殴り合った場合、ガブリアスの方が与えるダメージの割合が高いことが確認できます。
ついでに、BDの数値に大きな差があるヌメルゴンでも計算してみたいと思います。
意外にも、 Dに圧倒的に優れているとされているヌメルゴンのD実質種族値は、最高峰の水準ではあるものの、そこまでずば抜けているわけでもありません。逆に、B実質種族値を見て見ると、ナットレイより若干低い程度と、案外絶望的に低いわけでも無さそうです。
この計算をすることで、
「ヌメルゴンは特殊相手には最高峰の数値で堅実に有利が取れつつ、物理相手にも最低限互角に殴り合えるポケモンである」
という一見しただけではわかりにくい分析を、正確にすることができます。
<④技威力による補正>
先ほど、「ガブリアスとナットレイが同じ技威力で殴り合うと、ガブリアスが勝つ」と書きました。実際には、この二匹が使う技の威力は異なるので、その分を考慮に入れて計算すると、より正確です。この数値は、"技威力種族値"と呼ぶことにします。
計算方法は以下です。
1.基準技威力を150とし、そのポケモンが使う技の威力を150で割る(以下、この数値を"技威力倍率"と呼びます)。
2.実質種族値を、参照しているステータスの個数で割り、その後+30する
3. 2で出した値に、技威力倍率をかける
4. 3で出した数値と、2で出した数値を比べ、その上昇分(下降分)を実質種族値に足す(引く)。
まず、技威力倍率を計算します。ナットレイがガブリアスに撃つ技はジャイロボールなので、技威力はタイプ一致で225です。225/150=1.5なので、技威力倍率は1.5です。次に、ナットレイのABS実質種族値は299で、これはHABの3箇所を参照した数値なので、3で割ると、まあ大体100になります。これに30を足すと130です。これは、種族値100のポケモンに、無補正で努力値をMAXの半分ほど振った値と近似します。これに技威力倍率1.5をかけて195。上昇幅は65なので、これを299に足して364。これが、ナットレイの技威力ABS種族値です。
次に、ガブリアスも計算します。ガブリアスの技は地震で、威力は150なので、技威力倍率は1.0です。技威力倍率が1.0の時は、以降の計算は全て不要になります。ガブリアスの技威力ABS種族値は、そのまま333です。
ナットレイが逆転しました。ナットレイの実質種族値364に対して、ガブリアスの実質種族値は333。ここから縛られ種族値を計算しても307になるだけなので、ナットレイはガブリアスと、少なくとも互角以上のステータスを持ったポケモンであると言えます。私はナットレイの数値が優秀であるという話には納得していましたが、まさかガブリアス以上に数値が高いとは思いませんでした。
ところで、範囲技と反動技の扱いについて確認しておきます。
範囲技は、0.75倍の火力が2〜3体に飛ぶということで、事実上1.5〜2.25倍の火力が出ます。なので、その通り威力を1.5倍〜2.25倍にして扱うのが、より正確であると思います。
反動技に関してですが、これは、受けるダメージの分H実数値が低くなるということなので、その割合を計算して、その分低く見積もるのがいいと思います。与ダメの1/3の反動を受ける時、大体30〜70くらいで上下します。自分は計算が面倒なので、一律50低く見積もることにしています。能力下降技も、同じように扱っていいと思います。
計算方法の詳細についてですが、また少し複雑なので省きます。簡単に言うと、「火力が高いポケモンと耐久が高いポケモンを公平に比較できるようにした」ということになります。
以下に使う技の威力に対応した、技威力倍率一覧表を置いておきます。
使う技の威力-技威力倍率
225-1.5
195-1.3
180-1.2
165-1.1
150-1.0
135-0.9
120-0.8
105-0.7
90-0.6
80-0.534(0.5で計算して、少し高く見積もるのが楽です)
<⑤特性による補正>
特性による補正の扱いは、少し判断が難しいです。なぜなら、数値に直接影響しない特性があるからです。
例えば、親子愛やファーコートの補正を計算することは簡単です。技威力種族値と同じ計算をすればいいです。正確な手順としては、技威力種族値の計算で技威力倍率をかける際に、特性補正を一緒にかけると、正確な値が出せます。防御面の計算をする場合は、特性補正をかけた際に出た上昇分or下降分を半分にするのがいいです(この計算をしないと、特性の影響が不当に大きくなります)。
しかし、例えば浮遊という、数値に直接影響しない特性はどうでしょうか?浮遊が強力な特性であることは明らかですが、数値化しようとすると、耐久力に無限の値をかけることになってしまいます。縛られ種族値の時のように、地面技を受ける頻度の傾向を表せる計算方法が欲しいところですが、それは単純なステータスによって決まるものではないので、そういう訳にもいきません。
色々考えたのですが、数値に直接影響しない特性は、無視するのがいいと考えました。
例えば、この考えに則って、メガガルーラとクレセリアの実質種族値を比べてみます。
捨て身タックルメガガルーラ:392
メガガルーラもクレセリアも、どちらも強力なポケモンであるはずが、数値に圧倒的な差が生じており、一見クレセリアに不利な方法を用いているように見えます。しかし、今回はあくまで「ステータスの高さ」に注目したポテンシャルを測っているため、こちらの方がより正確な数値になると判断しました。実際に、クレセリアとメガガルーラをサイコキネシスと捨て身タックルで殴り合わせてみると、与えるダメージの割合は、結構な差でメガガルーラに軍杯が上がります。
ポケモンの総合的な強さは、「ステータスの高さ」だけではなく、「役割に合った性能をしているか」という要素も含まれてきます。浮遊などの特性は、そちらに作用する要素であるため、今回の、実質種族値を測る計算では、無視する方が良いと考えました。
それでは、いよいよ、以上の要素を含めた各ポケモンの実質種族値を比較してみようと思います。正直言うと、他にもまだ様々な細かい条件が結構あって、これだけでは誤差があったりするのですが、あまり計算に時間をかけすぎるのも嫌なので、今回は影響の大きい要素だけに注目して比較していきます。
メガシンカポケモンは種族値+100と強すぎるので、一般ポケモンと分けて考えることにします。
また、方針によって色々な比較方法が考えられますが、今回は以下の基準で比較することにします。
①AS or CS技威力種族値を計算します。特性補正は含めますが、BD実質種族値は計算しないことにします。
②技威力種族値は、そのポケモンのメインウェポンのみを参照します。
③範囲技は威力1.5倍で計算します
④反動技と能力低下技は、一律50低く見積もります
⑤表記方法は、"ASかCS-実質種族値-使用技"という形で表記します
では、以下より比較開始です。いやー、ワクワクしますねえ!
〜一般ポケモン編〜
ギルガルド :CS-478(BDを盾で計算)-シャドーボール
CS-289(BDを剣で計算)-シャドーボール
サンダー :CS-377-10万ボルト
エアームド(俺の好きなポケモン):AS-329-ブレイブバード
バンギラス :AS-497(砂)-岩雪崩
ヒードラン :CS-492-熱風
ヒヒダルマ :AS-371-ゴリラドライブ
ニョロトノ :CS-379(雨)-熱湯
キングドラ :CS-483(雨)-濁流
CS-402(非雨)-濁流
ルンパッパ :CS-458(雨)-濁流
CS-380(非雨)-濁流
テラキオン :AS-416(A+0)-岩雪崩
AS-855(A+6)-岩雪崩
マニューラ :AS-337-はたき落とす
ズルズキン :AS-413-はたき落とす
モロバレル :CS-337-ヘドロ爆弾
ナットレイ :AS-482-ジャイロボール
ポリゴン2 :CS-425(輝石込み)-トライアタック
レジギガス :AS-413-恩返し
ケッキング :AS-478-恩返し
バクフーン :CS-497-噴火
エンテイ :CS-517-噴火
〜メガシンカポケモン編〜
メガガルーラ :AS-466-捨て身タックル
メガリザードンy: CS-552(晴れ)-熱風
メガカメックス: CS-589-潮吹き
メガクチート :AS-488-じゃれつく
メガバクーダ :CS-535-熱風
両刀-557-ハイパーボイス
メガバンギラス:AS-595(砂)-岩雪崩
メガガルーラとメガクチートが異様に低いように見えますが、メガシンカポケモンの中で彼らだけが単体攻撃主体なので、こんなもんですね。メガガルーラは捨て身タックルの反動分があるので、与ダメ被ダメだけみればそこまでぶっ飛んでいるわけではないようです。一応この数値について解説しておくと、この計算方法だと反動技のメリットである「相手を倒しやすい」という部分が数値に反映されないのですが、それですら466というのは、ヒヒダルマの実質種族値が371であることを考えると、圧倒的です。彼の真価は、他のメガシンカポケモンと違って火力が単体に集中するかつ、メガクチートと違ってSが100もあるという点にあるでしょう。これにより、上から相手を倒しやすいと言えます。上から相手を倒せば反撃をもらわないし、弱点を突かれる機会も少ないので、それのおかげで、体感の数値が高くなっているんだと思います。メガクチートの方が数値が高いのは、メガ前の威嚇も計算に入れているからです。
とりあえず、与ダメ被ダメにまつわるステータスの高さに関しては大体このような感じみたいです。
みなさんは、ここからどのような分析をしますか?色々なことが読み取れると思いますし、もしもそこから、新たな可能性を見出すことができたなら、とても嬉しいです。
あとこれ、できるだけ計算が楽に済むように考えたのですが、それでも結構面倒です。実際に考察に使う時は、必要な計算と必要ない計算をしっかり考えないと、時間があっという間に溶けていくので、それだけ注意してください(笑)。
<更新履歴>
2023/5/27 誤字脱字修正